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数学とファイナンスのメモ/勉強したことを纏めています

消費の二面性とスルツキー分解

最適消費計画は財の価格pと,所得Iによって決まりました。前回はその最適消費の求め方を数学的に導きましたが,では価格や所得が変化した時にその消費言い換えれば需要がどのように変化するのでしょうか。価格の変化と需要の変化と関係を偏微分を用いて解説していきます。

スルツキー分解とは?

あるi財の需要が別のあるj財の価格変化にどのように反応するかを示したものがスルツキー分解であり,以下の式で表される。


\dfrac {\partial x_{i}}{\partial p_{j}}=\dfrac {\partial x^{H}_{i}}{\partial p_{j}}-\dfrac {\partial x_{i}}{\partial I}x_{j}


このスルツキー分解を理解するには,必要となるのが補償需要関数・支出関数・シェファードの補題および消費の二面性の理解が必要である。

補償需要関数

補償需要関数とは「ある価格体系の下で,一定の効用を達成する,最も安上がりな消費計画」のことである。補償需要は財の価格pと達成すべき効用uの値によって決まり,その式は以下のように表される。



x^{H}\left( p,u\right)

また,この補償需要関数は効用がuのもとで最も支出が小さくなる需要であるから,以下に示す支出最小化問題の解である。


\min_{x} px

s.t. \ \ u(x)=u

消費の二面性

今,ある時点での価格・効用・所得をp,\ u,\ Iとすると現在の消費について以下が成り立つ。


x(p,I)=x=x^H(p,u)

このように現在の消費が効用最大化問題の解であると同時に支出最小化問題の解であるということが言える。このことを消費の二面性(双対性)と言う。

支出関数

(最小)支出関数とはある価格体系の下で,一定の効用を達成するために必要な最低限必要な金額」をいい,補償需要関数が「ある価格体系の下で,一定の効用を達成する,最も安上がりな消費計画」であることを考えると,以下のように式が与えられる。


 I(p,u)=px^{H}(p,u)

 

シェファードの補題

シェファードの補題とは,「支出関数を価格で微分すると,補償需要量が出る」という事実のことである。このことを証明するために支出関数を財iの価格p_i偏微分する。



\dfrac {\partial I}{\partial p_{i}}=x^{H}_{i}+p_1\dfrac {\partial x^{H}_{1}}{\partial p_{i}}+\ldots +p_{n}\dfrac {\partial x^{H}_{n}}{\partial p_{i}} \tag{1}

ここで補償需要関数は支出最小化問題の解であった。そこで支出最小化問題をラグランジュ未定乗数法を用いて解いていく。ラグランジュ関数を以下のように定義する。



L\left( x,\lambda \right) =px-\lambda \left( u\left( x\right) -u\right)

一階の条件を満たすことから


u\left( x\right) -u=0

\dfrac{\partial L}{\partial x_{1}}=p_{1}-\lambda \dfrac{\partial u}{\partial x_{1}}=0
\vdots

\dfrac{\partial L}{\partial x_{n}}=p_{n}-\lambda \dfrac{\partial u}{\partial x_{n}}=0

が成り立つ。したがって(1)式は以下のように変形できる。



\dfrac {\partial I}{\partial p_{i}}=x^{H}_{i}+\lambda\left(\dfrac{\partial u}{\partial x_{1}}\dfrac {\partial x^{H}_{1}}{\partial p_{i}}+\ldots +\dfrac{\partial u}{\partial x_{n}}\dfrac {\partial x^{H}_{n}}{\partial p_{i}}\right) \tag{2}

またu\left( x\right) -u=0の両辺をp_i偏微分すると,



\dfrac{\partial u}{\partial x_{1}}\dfrac {\partial x^{H}_{1}}{\partial p_{i}}+\ldots +\dfrac{\partial u}{\partial x_{n}}\dfrac {\partial x^{H}_{n}}{\partial p_{i}}=0

となり,これを(2)式に代入すると以下の式が得られる。



\dfrac {\partial I}{\partial p_{i}}=x^{H}_{i}

よって,シェファードの補題が成り立つことが示された。

スルツキー分解の導出

いよいよスルツキー分解の導出です。価格の変化にどのように需要が反応するかが知りたいわけですが,それは式で表すと以下のようになります。


\dfrac{\partial x_i}{\partial p_{j}}

消費の二面性の式は支出関数を用いると次のように表せます。


x_i(p,I(p,u))=x_i^H(p,u)

両辺をp_j偏微分すると


\dfrac {\partial x_{i}}{\partial p_{j}}+\dfrac {\partial x_{i}}{\partial I}\dfrac {\partial I}{\partial p_{j}}=\dfrac {\partial x^{H}_{i}}{\partial p_{j}}

となります。最後にシェファードの補題および消費の二面性から以下のスルツキー分解が導けます。


\dfrac {\partial x_{i}}{\partial p_{j}}=\dfrac {\partial x^{H}_{i}}{\partial p_{j}}-\dfrac {\partial x_{i}}{\partial I}x_{j}

この分解により需要の変化は,代替効果と所得効果に分かれて分析することができるとわかりました。




以下の本を参考にしています。

ミクロ経済学の力

ミクロ経済学の力

 

無差別曲線と最適消費

問.二つの財の消費量をx,y,価格をp_x,p_y,所得をIとする。効用関数がu(x,y)=x^ a y^ bのときの最適消費計画を求めよ.

予算制約のもとで効用を最大にする財の組み合わせを求める問題です。二通りの解法で解いていきたいと思います。


解法(1) 無差別曲線の傾きと予算線の傾きから求める

最適消費は無差別曲線と予算線が接する点であり,最適消費では無差別曲線の傾きが予算線の傾きと等しくなっている。したがって,それらの値を求め比較することで解が求まる。

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限界代替率MRS(無差別曲線の傾き)は

MRS=\dfrac {\partial u/\partial x}{\partial u/\partial y}=
\dfrac {ax^{a-1}y^{b}}{bx^{a}y^{b-1}}=
\dfrac {ay}{bx}

予算線の傾き(絶対値)は

p_x x +p_y y = I\ より\ \dfrac{p_x}{p_y}

である。したがって最適消費は以下の二つの式を満たす。

\dfrac {ay}{bx}=\dfrac{p_x}{p_y},\ \
p_x x +p_y y = I

よってこれらの式を解くと最適消費は

\left( x^ {\ast },y^ {\ast }\right) =\left( \left( \dfrac {a}{a+b}\right) \dfrac {I}{p_x},\left( \dfrac {b}{a+b}\right) \dfrac {I}{p_y}\right)

となる。


解法(2) ラグランジュ未定乗数法を用いて求める

この問題は以下のように制約付き最大化問題として記述できる。

max.\ \ u(x,y)
 s.t.\ \ g(x,y)=0

ただし\ g(x,y)=I-p_x x -p_y y

したがってラグランジュ関数Lを作ると,

L(x,y,\lambda)=u(x,y)-\lambda g(x,y)

となり,x,y,\lambdaでそれぞれ偏微分してゼロとおく。


\dfrac {\partial L}{\partial x}=ax^{a-1}y^{b}+\lambda p_{x}=0


\dfrac {\partial L}{\partial y}=bx^{a}y^{b-1}+\lambda p_{y}=0

p_x x +p_y y - I = 0

この三式を連立して解くと,解法(1)と同様の解が得られる。


以下の本を参考にしています。

ミクロ経済学の力

ミクロ経済学の力